娘DOKYU@ガッタスシリーズ

第48回 第2回739カップ決勝その1



CHOOPを退け決勝に進んだGatasの面々。相手はカレッツァ。前大会では引き分けた相手である。が、引き分けた故にトータルの得失点差でカレッツァに優勝を捥ぎ取られていた。その時の悔しさが今のガッタスにどれほどの影響を与えたのかはこの大会での彼女等のプレーを見てみれば誰でも分かる事だろう。技術的に見れば止まってボールを貰わない、味方同士の激しいコーチング、シュートはダイレクトで打つなど本気プレー多数。メンバー達の有機的で効率的にゴールへ向かって行くプレーの数々はただ勝つためにある。相手より点を多く取る事。それが勝つ事。引き分けで優勝を逃した事が勝つ事への意欲をより一層強く意識させていた。


試合はお互いディフェンスを意識する事から始まった。吉澤は里田と共に後方に陣取り小島から出るパスをケアーしていた。無理は全くしなかった。持ちすぎず少しでも余裕のあるうちボールを外へ出す。セイフティーファーストというセオリーを一厘の色気も出さずに遂行していく二人。危機管理体制は微塵の隙も無かった。
藤本と石川はよく走り攻守の切り替えを早くしとにかくチェイシングをして相手の攻撃の芽を潰しまくった。二人のチェイスがあってこそ里田や吉澤の守備がより強固になっていた。前半は0-0。お互いがお互いの良い所を潰していた。



しかしながら点を取らなければ決して勝つことは出来ない。Gatasは前大会で其れを身をもって知っている。



北澤豪監督は勝ちに出た。動いて献身的に守備をする石川、藤本の両選手を外し前大会得点王の是永美記、今大会2試合で2得点のあさみを後半開始から投入。攻撃的な選手を入れた事はそれ自体が監督からのメッセージだ。


”点を捥ぎ取れ”


布陣的には2-1-1。是永、里田が一番後ろ、真ん中に吉澤、そして1トップにあさみ。あさみ自身はワンサイドカットを意識的に出来る守備の上手い選手。対人対応も細かいサイドステップをしてどんな動きにも反応出来る体制を常にとる事が出来ている人。しかしながら吉澤ひとみは自身が言うように決して守備が上手い人ではない。対人対応もやや遅れ気味だし攻守の切り替えやチェイシングも石川や藤本ほど早く積極的にする人ではない。彼女がど真ん中に陣取る事は守備面ではやや不安があるのかもしれない。しかしながら攻撃面では石川や藤本では遠く及ばない蹴る技術を持ち生まれもった体格もある。その体格を活かしたボールキープでは味方に落ち着きを齎すだろうしその蹴る技術では味方からのパスをダイレクトで強いシュートを打てる技術や判断力もある、しかもキックインやコーナーキックでは精度が高くてスピードのあるボールを蹴りこれまでにも数多くのチャンスを沢山作っている。守備の脆さか攻撃の力強さか。そのどちらがこの後半で出るのか。吉澤のパフォーマンスが試合の鍵を握っている。後半開始前にぼんやりそんなことを思っていた自分。しかしカレッツァの狙いは吉澤ではなかった。


後半4分過ぎCKからのボールを直接シュートする是永。戻りながらのプレー、しかも左足だった事からフリーでありながらゴールバー上方へ打ち上げる。仰け反って悔しがる是永。その直後だった。ゴールクリアランスでGK河辺から投げたボールは里田がマークする選手へふんわり飛んで行く。その時そのボールをただ眺めていた是永がいた。ボールウオッチャー。プロの選手でもこの行為をよくしてしまう選手はいる。是永の場合は自らのシュートが失敗した後だった。多分気持ちの切り替えが出来ていなかったのだろう。普段の彼女からは考えられない。是永がぼぉーっとボールを眺めている間に小島は是永の視野から消えた。是永の背中側からガッタスゴール方面へ猛然と駆け出していた。里田とカレッツァの選手が競り合う、ボールはどちらの選手にも当たらず里田と紺野の間に落ちた。是永が気が付いた時は既に遅し小島は是永よりも早くそのボールに触れGK紺野との1対1も冷静に見極め先制点を挙げた。小島がGK河辺が投げ出すや否や里田の裏に向かって走っている事からこのプレーは始めから狙いを持っているもの、練習で鍛えてきたプレー、と直ぐに感じた。狙われたのは吉澤ではなく里田と是永だった。Gatasの要の二人を壊しての得点。Gatasの盾と矛が完璧に破壊された瞬間だった。見ていた僕の衝撃は今までに感じた事が無いぐらい大きいものだった。


しかし、である。忘れていた事が僕にはあった。今大会のおいてのGatasのスローガンである。





”メンバー全員で勝つ”





Gatasはもう誰かに頼りきったチームではなかったのだ。
Gatasの逆襲は直ぐに始まった。



(続く)