ナビスコカップ決勝:ジュビロ磐田VSサンフレッチェ広島 5-3

得点をリードしたチームが守りに入り、攻めるしか後が無いチームがその守りを突き破って勢いそのまま突き放した、そんな試合。試合の流れは公式で。



いつもどうり個人について。
大井。冷静だった。ガンジンはパス出しも上がりも窮屈になってから行うのでよく自滅し度々ピンチを招いていたが大井にはそれがなかった。冷静なカバー、ソツのない隣の味方へのパス回し。セイフティーに何かを行えうるポジショニングを身につけていると思った。とうとう身につけたのだと思った。


那須。いつもどうり前進し、その勢いで攻守にわたり相手組織網を破る破壊力を披露し続けた。その勢いをもった上がりは度々広島守備陣を混乱に陥れた。サイドからサイドへの中継プレーも当たり前のようにこなしていた。寄られている狭いスペースでもその中継プレーをチャレンジしていた。技術的に可能であるかどうかは疑わしいが、やるしかないのだと無言のまま叫んでプレーをしているように見えた。那須はMVPでもおかしくなかった。 


西。いつもどうり人と人の合間を浮遊していた。いつ見ても思うが浮遊し続けるための運動量はちょっと狂っている。西の起点作りによるチームへの貢献度は前田より有るのではと思う。良いのか悪いのか西の狂っている意欲には味方は容易に追いつけない。もちろん敵も追いつけない。ボールだけが追いつくことができていた。


ジウシーニョ。ボールを奪われた直後によくファールをして流れを相手に渡さなかった。後半攻め続けることができたのはジウシーニョのファール覚悟での潰しがそこに多分に影響していたと思う。カウンターになる1、2歩手前で足を引っ掛けてよく流れを止めていた。試合の運び方を自分たちの流れというものを理解しそれを作り出すために実際に行動している。西の隙を突く動きとジウシーニョの相手の意気を削ぐいやらしさは勝つだけでなく勝ち続けることを成すにはチームになくてはならないものだと思う。


前田。俺達の前田なんてことをよく聞くがもう俺たちの範疇を超えた所に行ってしまったように思う。日本の前田というか。手の届かないところへ行ったように思えた。
何もかもが目立っていた。ゴールへ向かう姿勢は特に目立った。下がりすぎることが無かった。早さや派手さはないが間合いを相手に押し付けてジリジリ進んで行くというドリブルはJリーグでは他で見られない。前を向けば全く取られなかった。パスが上手いのは磐田好きには当たり前なことで川口であればPKなら止めそうだなとなんとなく思ってしまうことと同じぐらいセンタリングするなら大きいチャンスになるなと思える。船谷へのアシストは見ていて当然だなと思った。そのクロスを上げる前のアウトサイドでのトラップがまた痺れる。2得点1アシストでMVP。どうやら暫くは前田の時間が続きそう。代表でもJでも。


古賀。高さでCKの驚異を取り除いているというだけでも大きい。放りこみへは負けなし。ヨーイドンで裏に走られるとキツイところはあるがそこはファールで対処できていた。上に強いCBは横に強い川口とは相性もよくこの先に加賀とガンジンが無傷で揃ったとしても古賀は試合に出場していると思う。試合後の写真撮影で菅沼とともにど真ん中に陣取っていたのには笑った。もうふたりともずっと磐田に居いればいいじゃん。


川口。最後のPKは止めるだろうと思った。川口のPK阻止率がどれぐらいかは知らないが印象的にPKを止めるのはほぼ当たり前なものになっている。でも本人が言うようにこの試合では仕事はそれだけだった。マキノのFKは止めて欲しかったかな。壁に入っている西が避けてるからまあアレなんだけども。川口とは関係ないが壁はもっと露骨にジリジリキッカーに近づいてもいいのでは。自分がFKを蹴るときももっと壁が近いことをアピールしてもいいと思う。一番最初のFKは明らかに壁が近かった。でも康太も誰も何もいわずそのまま蹴っていた。もうちょっとしたたかに事を運んでもいいかなと思う。


菅沼。いいところはトラップ。磐田は後半疲れてくると浮き球が多くなるが菅沼であればそれをうまく処理できる。トラップ時に相手が近づいてきても後ろを向かない。トラップで交わしにかかる。だから相手は飛び込めない、飛び込めないから悠々とトラップが出来る。そこに起点が作られる。相手チームは全体的に下がる。磐田の時間がそこにできる。それは本当に技術の賜だなと思う。ドリブルもクロスも全部よかった。詰めも良かった。後半、相手が疲れている所に交代で出てくると活きる。山崎と菅沼は切り札になっている。


船谷。いつも前田を見ていた。前田へのパス、前田へのフォローが目立った。そんな中から得点が生まれた。ここはチームのホットラインになりつつある。一瞬の速さを攻撃ではなく守備で活していた。康太の代わりにアンカーぎみに置くとどうなるだろう。ボールを奪うことが康太より身体的な意味で優っているように思う。そうやって船谷がアンカーに収まることができるなら菅沼を最初から左OMFで使えるが。まあでも今は無いか。


修斗。ドリブル対処では飛び込まず、またカバリングもそつなくこなした。カバリングはミスが一つもなかった。ミキッチに振り切られた場面以外ではミスはなかった。ボールを貰いに上がるタイミングも非常に良かった。康太から菅沼にパスが出ると菅沼がダイレクトで叩けるタイミングを見計らって上手く前目に上がりパスを受け取ったりしていた。修斗と康太のパス交換はチームがボールを保持する時間をうまく作り出していた。”自分たちの時間”とやらはそこから始まっている印象が強い。前に出ていく攻めのパス回しではないが時間や溜めを作りチームに落ち着きをもたらす大事なパス交換だろう。突き抜ける強さ破壊力という意味では修斗に期待はできないがパスの受け手として2手程度先読みし保持することを目的とした安全性の高いパス回しの一端を担うことには期待したい。


ガンジン。縦への放り込みには強かった。だがビルドアップのスキルは全般的に低調だった。この試合だけというわけではなくいつもそこは危なかっかしいように見える。敵に囲まれている味方にパスを出してピンチを招き、ドリブルすれば敵が待ち構えているところに突っ込み、余裕が無いのに余裕を持ち後ろから迫われてるというのに気づかず足をだされてボールをフィフティにさせられたりしていた。川崎戦を思い、この試合では大井で良かったのではと見ていて思っていた。前半で怪我をして大井と交代。複雑な心境だった。


康裕。守備。ショートパスの範囲ならどんな状況にも対処出来ていたと思う。だがミドル以上のパスが自分のマーカーに出されると簡単に裏を取られていた。外から内に裏へ入ってくる動きにあわせて逆サイドから長めのパスが来ると大概フリーにしていた。ボールが自分から遠くにあるときに気を抜きすぎですね。弱点として今後狙われる可能性が大いにありそう。ボールが近くにないときは意識的にマークに対して集中をして欲しいと思う。せめて後ろに首振りぐらいは逐一しましょうよ。
攻撃。見ていて思ったのはゴロの縦パスの正確性と意外性は康裕の長所なのではということ。縦に入れるシーンは3度あったと思うがどれもがシュートもしくはゴール前まで運ばれていた。左の修斗はどちらかと言えば想定の範囲内に収まるパス回しだが康裕の縦入れのパスはディフェンスラインから一気にFWまで運び、落ち着いた流れを一気に緊迫感あふれるものへ変えていく意外性と攻撃性とを兼ね備えたものに見える。もっと活用してもいいかな思う。自分が以前指摘した中への切り込みを何度か見せてくれましたが全て失敗に終わっていた。ドリブルする距離が長すぎたのがNGでしたね。叩いてリターンを走りながらトラップして中に斬り込むパターンが最も有効なのでしょうがリターンが来ませんでしたね。相手に切られていたし、しょうがないでしょう。リターンが来ないものだから自分で全部抜いちゃえって感じでしたけどさすがに誰かに叩いて敵の目先を変える敵の視線を自分からずらすということをしないと難しいでしょう。近づいてくるところもスピードが上がるところもリズムも全部見られているわけですから。ダフったとしてもダイレクトでシュートする方がドリブルからのシュートより入りやすいのとそこは一緒です。
康裕の前に位置するのが神出鬼没でおなじみの西であるせいか自分より前にボールがあるときの味方へのフォローはすこぶる遅い。でもそれはそのままでいいと思う。いちいち西の縦横無尽な動きに釣られていたらボールを奪われたときの守備の入りのポジショニングがおかしくなる。パスなら縦入れ、ドリブルなら抉ってクロスもしくは相手に当ててCKを得るということがチームとしては有難いかもしれません。古賀、那須、前田と高さに強みのある選手が今は多いですしね。


山崎。ドリブルで仕掛けてはファールをもらいFKを得てチャンスにしていた。前に仕掛ける、抜くことが出来なくても最低限ファールはもらう、そういうことを冷静に何度も行っていた。得点になったシュートはインステップで力強いシュートを打つ振りのままわざとインフロントに引っ掛けてゴロを蹴るというそれなりの技術を見せてのゴールでなんだか頼もしかった。西に代わり下がって守備をすることも淀みなく行ない冷静な心持ちを存分に発揮した。延長で磐田が崩れなかったひとつの要因は山崎の活躍にあったからだと思う。延長戦だけで考えるならMVPは山崎だった。


康太。パスの繋ぎよりも自チームCKの跳ね返しの拾いやDFのカバーにおけるシュートブロックなど地味と言われるような仕事で目立っていた。那須が前に出ていくことが磐田の攻撃力を破壊的なものにするというチームの最終兵器みたいな意味合いが今は強いので康太には今のまま後ろ目で仕事をすることが多くなるだろうと思う。アンカー的なところから攻撃では正確なパス捌きとこぼれ球拾い、守備ではスペース埋めとDFカバーを粛々を行って欲しいと思う。トラップして敵が迫るとすぐ後ろを向く癖があるのがやや難点。トラップ時に足元に置き過ぎることとトラップを動きながら出来ないこと(出来るけどやらない?)がその癖を増長しているように感じる。ポジションを考えるとそこを運動量でカバーすることには疑問を感じる。技術を身につけるしかないと思う。



先制したものの追いつかれ突き放されたが攻めつづけて同点。磐田は相手にとって一筋縄ではいかないチームになった。心技体どれも向上していると思うが一番は体ができたことが大きいと思う。具体的には最後まで走りきれる選手が多くなったこと。そこが大きいと思う。今は体が引っ張っているが、心技が追いつけば上位の常連になると思う。